オフィス緑化が勤務者に与える影響に関する研究 業種 職種別による考察

日緑工誌,J. Jpn. Soc. Reveget. Tech., 43(1),86-91,(2017) 論文 ORIGINAL ARTICLE 論 文 オフィス緑化が勤務者に与える影響に関する研究 業種 職種別による考察 矢動丸琴子 *1) 中村 勝 2) 岩崎 寛 1) 1) 千葉大学大学院園芸学研究科 Graduate School of Horticulture,Chiba Univ. 2) 国土緑化株式会社 Kokudo Ryokuka Corporation 摘要 : 近年, ストレスチェック制度が義務化され, 職場におけるストレス対策が重要となってきている その対策の 1 つとして, オフィス緑化が注目されている そこで, 本研究では, オフィス緑化が勤務者の心理に与える影響について, 業種や職種の違いにより効果に差が見られるのか検証を試みた その結果, 業種や職種のみでは, 効果に目立った差は見られなかったが, 業種と職種を組み合わせた場合には一部で 仕事 職場に対する評価 や 気分 感情状態に対する評価 に異なる傾向が見られた また, 植物設置に対する反応も異なる傾向が見られた その要因として, 仕事内容に加え, 植物に対する印象やストレスの種類等が考えられた キーワード : オフィス緑化, 業種別, 職種別,VAS,POMS YADOMARU, Kotoko, NAKAMURA, Masaru and IWASAKI, Yutaka: Study on the effects of office greening on workers-focused on business and job categories. Abstract: This study examined the effects of office greening on workers in the actual work environment. The survey focused on business and job categories. Different trends were seen when combining business and job categories: evaluations of the job or the workplace as well as feelings or emotional states improved. Additionally, the workers responses to office greening were different between categories. Factors that were considered included the business contents, the workers impressions of plants, and the kinds of stress related to the job. Key words: office greening, business category, job category, VAS, POMS 1. はじめに 現在, 日本の労働者の 60.9 % が仕事や職業生活に関する強い不安 悩み ストレスを抱えている 4) また, その内訳は, 職場の人間関係 が 41.3 % と最も多く, 次いで 仕事の質の問題 が 33.1 %, 仕事の量の問題 が 30.3 % となっている このような現状に対して, メンタルヘルスケアに取り組む事業所は 2012 年の調査時点で 47.2 % であり, 年々増加傾向にある しかし, 効果がある あったとする事業所の割合は 36.9 % に留まっている その一方で, メンタルヘルスケアに取り組まない事業所も 52.8 % あり, その理由として 必要性を感じない が 51.0 % と半数を占め, 次いで 取り組み方がわからない が 31.6 %, 専門スタッフがいない が 22.4 % となっている 今後メンタルヘルス不調者は増加していくと考えられているが, 事業所におけるメンタルヘルス対策は未だ不十分であり, 対策が必要である そこで,2014 年 6 月 25 日に労働安全衛生法の一部が改正され,2015 年 12 月 1 日より, 従業員数が 50 名以上の事業所を対象にストレスチェック制度の実施が義務化されることとなった 5) ストレスチェック制度とは, 労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することを目的としたものであり, 定期的に労働者の ストレス状況を検査し, 本人にその結果を通知することで, 自らのストレスの状況について気付きを促すものである 一方, 職場におけるストレス対策の1つとして, オフィス緑化が注目されている 植物には多面的な効果があり, 屋内に設置した植物がストレス負荷を大きく軽減することや, VDT 作業時の疲労に対する自覚症状が抑制されることなどが知られている 3,6) それらの効果を利用したオフィス緑化は, インテリアや内装としての役割に留まらず, 勤務者の心理状態の改善に寄与する役割があることも既往の研究から明らかとなっている 1) また, 実際のオフィスを対象とした岩崎ら (2015) の報告によると, オフィスへの植物設置は勤務者に対して有用であり, 職場環境への満足度が上昇するという効果が明らかとなっている 2) さらに, 矢動丸ら (2016) による業種の異なる実際の企業 5 社を対象とした実験では, 植物を設置することにより, 仕事への意欲や職場環境への満足度といった勤務者の仕事 職場に対する評価と, 疲労や混乱などといった勤務者自身の気分 感情状態に対する評価のどちらにも良好な影響を及ぼすということが明らかとなった 7) また, 業種 職種や社内の雰囲気などの違いにより, 植物を設置した際の効果が異なる可能性があるということも指摘している しかし, 業種 * 連絡先著者 (Corresponding author): 271-8510 千葉県松戸市松戸 648 E-mail:toko_t69@chiba-u.jp

オフィス緑化が勤務者に与える影響に関する研究 業種 職種別による考察 87 職種などの違いによる効果の差異についての検証は十分ではなく, 更なる検証が必要という課題があげられている つまり, 業種や職種が異なれば, その仕事内容や特徴が異なるため植物設置の効果には違いが見られると考えられる そこで, 本研究では, 実際のオフィスにおける植物設置の効果が業種や職種といったそれぞれの仕事の内容や特徴により異なる傾向が見られるのかどうかを明らかにすることを目的とした 2. 研究方法 2.1 研究概要本研究は,2016 年 10 月 ~11 月に実際の企業 10 社を対象として実施した 業種の内訳は,IT 企業 3 社, 食品関連企業 3 社, 設計業 4 社である これらは, それぞれの業種のタイプが異なること, および IT 企業と設計業については既往研究 7) において他業種との間に植物設置による効果の違いが見られなかったことから選定した 実験対象者は各社に勤務する 20~70 代の男女計 480 名とし,409 名から有効回答を得た ( 有効回答率 85.2 %) また, それぞれの企業において,3~4 つの職種が対象となるように対象者を選定した なお, 本調査を実施するに当たっては, 実験内容 方法 データの取り扱いなどについて十分説明し, 同意の得られた方のみを調査対象とした 表 -1 に対象企業の詳細を示す また, 設置植物は既往研究 2) を参考に, 小型の鉢を写真 -1 のように各自のデスクに設置した 植物種はポトス (Epipremnum aureum) やモンステラ (Monstera deliciosa) などの色が異なるものや斑入りを含む観葉植物 16 種類から対象者に 1 つ選定してもらった 実験フローを図 -1 に示す なお, 調査はすべて各自が自身のデスクに在席し, 測定用紙の記入が可能な時間帯に実施した 2.2 測定項目 2.2.1 仕事 職場に対する評価仕事 職場に対する評価として Visual Analog Scale 視覚的評価スケール ( 以下 VAS) を用いた VAS とは,100 mm の直線の両端をそれぞれ最良及び最悪の感覚と定義し, 高得点であるほど最良の感覚であるという, 現在の主観的な症状の程度を対象者に記入してもらう検査手法である 図 -2 に記入例を示す なお, 本研究での測定項目は 仕事への集中力 仕事への意欲 仕事のはかどり 職場での会話 職場環境への満足度 の 5 つとした 2.2.2 気分 感情状態に対する評価気分 感情状態に対する評価として POMS 短縮版 ( 以下 POMS) を用い, 植物設置前後において測定した POMS とは, 対象者の最近の持続的な気分状態を把握し, 対象者の気分 感情状態の変化を測定する指標である POMS の測定項目は, 緊張 不安 抑うつ 落ち込み 怒り 敵意 活気 疲労 混乱 の 6 項目であり, 本研究では, 対象者の負担を軽減するため, 質問項目数が 30 問である短縮 版を用いた また, 本研究における評価対象期間は植物設置期間に合わせた1ヶ月間とした なお,POMS では, 素得点ではなく標準化された T 得点に換算し, 統計処理などを行う 2.2.3 質問紙調査 聞き取り調査実験がすべて終了した後, 質問紙調査を行った 質問項目は, 今回の実験において植物を設置して良かったことと良くなかったこと 職場におけるストレスの種類 デスクでの滞在時間 とした なお, デスクでの滞在時間のみ単一回答とし, その他は複数回答とした また, 質問紙調査の補足として, 植物の撤去後に聞き取り調査と現地調査も行った 写真 -1 実験の様子 Photo-1 Experimental situation 表 -1 対象企業の詳細 Table 1 Details of a subject business organization 図 -1 実験フロー Fig. 1 Experimental flow 図 -2 VAS 記入例 Fig. 2 How to fill in VAS

88 矢動丸琴子 中村勝 岩崎寛 3. 結果 3.1 植物設置による効果 全対象者 409 名分の植物設置前後の VAS 測定値を図 -3 に示す ウィルコクソンの符号順位和検定を行った結果, すべての項目に有意差が見られ, 設置後の方が高い値を示していた このことから, 植物を設置することにより勤務者の仕事や職場に対する評価が向上することがわかった 図 -4 に対象者全体の植物設置前後の POMS の T 得点値を示す VAS と同様に検定を行った結果, すべての項目に有意差が見られた 負の感情状態を示す 緊張 不安 抑うつ 落ち込み 怒り 敵意 疲労 混乱 では, いずれも値が減少しており, これらの結果は, 矢動丸ら (2016) の研究 7) とも一致していた また, 正の感情状態を示す 活気 についても値が上昇しており, 既往研究では植物設置前後において有意な上昇が見られなかったものの, 本研究では有意な上昇が確認された 以上のことから, オフィスにおける植物の設置は勤務者にとって, 仕事 職場に対する評価を向上させるのみならず, 負の感情状態の軽減や, 正の感情状態の向上などの有用な効果をもたらすことが示唆された 3.2 業種 職種別による効果 3.2.1 業種別による効果の差異 業種ごとの植物設置前後での効果の差異について検討するために,IT 企業 食品関連企業 設計業それぞれについて, 植物設置前後での対象者の VAS および POMS の値について, ウィルコクソンの符号順位和検定を行った その結果, IT 企業では, 対象者全体の結果と全く同様の結果が得られ, 食品関連企業と設計業においては,VAS のすべての項目と, POMS の 活気 を除くすべての項目において有意差が見られ, 感情状態が改善されていた また, 業種間での比較を行うため,VAS と POMS の双方に対して, 各業種の対象者それぞれの植物設置後の値から植物設置前の値を引いた変動の差の平均値について,IT 企業 食品関連企業 設計業の間でクラスカル ウォリス検定を行った その結果,VAS では,IT 企業と設計業において, 仕事への集中力 仕事への意欲 仕事のはかどり の 3 項目で有意差が見られた いずれも変動の値は IT 企業の方が大きく, 以上の 3 項目においては, 相対的に効果が大きかったことがわかった なお,IT 企業と食品関連企業においてはいずれの項目にも有意差は見られず,POMS においてはすべての業種間で有意差は見られなかった 3.2.2 職種別による効果の差異職種についても, 植物設置前後での効果の差について検討した なお, 本研究においては, 聞き取り調査結果でのそれぞれの業務内容を参考に, 営業 事務 経理総務( 以下, 事務 ) 企画 開発( 以下, 企画 ) の 3 種類に職種を分類し, これらの職種にあてはまらないと判断したものについては, 良 100 悪 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 ** ** ** ** ** 仕事への集中力仕事への意欲仕事のはかどり職場での会話職場環境への満足度 n=409 ウィルコクソンの符号順位和検定 **:1% 有意 *:5% 有意 設置前設置後図 -3 対象者全体の植物設置前後のVAS 値 Fig. 3 VAS measurements before and after all subjects' plant placement 80 70 60 T 得 50 点 40 30 20 ** ** ** * ** ** 緊張 不安抑うつ 落ち込み怒り 敵意活気疲労混乱 設置前設置後 n=409 ウィルコクソンの符号順位和検定 **:1% 有意 *:5% 有意図 -4 対象者全体の植物設置前後のPOMS T 得点値 Fig. 4 T score measurements of POMS before and after all subjects' plant placement 除くこととした なお, 職種ごとの有効回答数は, 営業 が 115 名, 事務 が 95 名, 企画 が 139 名であった 業種の解析と同様にして, 営業 事務 企画それぞれについて, 植物設置前後での対象者の VAS および POMS の値について, ウィルコクソンの符号順位和検定を行った その結果, 企画では, 対象者全体の結果と全く同様の結果が得られ, 営業と事務においては,VAS のすべての項目と,POMS の 活気 を除くすべての項目において有意差が見られ, 感情状態が改善されていた また, 職種間での比較を行うため,VAS と POMS の双方に対して, 各職種の対象者それぞれの植物設置後の値から植物設置前の値を引いた変動の差の平均値について, 営業 事務 企画の間でクラスカル ウォリス検定を行った その結果, いずれの項目にも有意差は見られず, 職種間での効果の差はなかった

オフィス緑化が勤務者に与える影響に関する研究 業種 職種別による考察 89 表 2 業種と職種を組み合わせた際の植物設置前後における VAS 値 Table 2 VAS measurements before and after plant placement when business and job categories were combined 有効仕事への集中力仕事への意欲仕事のはかどり職場での会話職場環境への満足度業種職種回答設置前設置後変化量設置前設置後変化量設置前設置後変化量設置前設置後変化量設置前設置後変化量 営業 49 57.8(±20.1) 70.0(±14.6) 12.2 ** 58.8(±20.2) 70.0(±14.5) 11.2 ** 58.1(±18.0) 69.8(±14.7) 11.7 ** 55.8(±69.6) 69.6(±13.6) 13.8 ** 53.9(±18.9) 66.8(±19.0) 12.9 ** 事務 24 54.1(±23.3) 70.7(±12.7) 16.6 ** 58.4(±22.5) 71.4(±13.3) 13.0 ** 51.6(±18.8) 69.7(±13.0) 18.1 ** 61.3(±22.6) 76.5(±17.4) 15.2 ** 58.6(±19.0) 68.7(±19.4) 10.1 * 企画 35 52.5(±22.6) 65.0(±18.0) 12.5 * 61.4(±20.1) 68.2(±17.9) 6.8 47.7(±17.2) 64.8(±14.5) 17.1 ** 54.9(±22.3) 70.4(±14.0) 15.5 ** 54.1(±20.3) 69.4(±14.2) 15.3 ** 営業 46 58.5(±20.1) 65.6(±16.4) 7.1 * 63.9(±20.6) 69.8(±14.9) 5.9 55.7(±19.9) 67.7(±14.4) 12.0 ** 58.7(±23.0) 71.6(±14.1) 12.9 ** 58.3(±20.3) 66.3(±17.2) 8.0 ** 食品 事務 57 53.8(±17.3) 66.6(±15.7) 12.8 ** 54.1(±16.5) 65.5(±16.2) 11.4 ** 52.0(±15.9) 66.5(±14.8) 14.5 ** 50.3(±19.3) 64.6(±16.7) 14.3 ** 52.2(±16.6) 66.1(±19.2) 13.9 ** 企画 33 62.6(±2.9) 62.6(±2.9) 0.0 65.4(±21.5) 67.0(±16.1) 1.6 58.6(±17.6) 64.0(±15.8) 5.4 61.6(±22.2) 70.6(±13.9) 9.0 * 58.6(±20.9) 65.2(±14.3) 6.6 営業 20 64.3(±21.5) 66.3(±14.5) 2.0 63.9(±20.4) 67.6(±14.2) 3.7 58.8(±22.8) 65.0(±15.1) 6.2 61.6(±15.7) 65.7(±12.5) 4.1 48.4(±21.9) 60.4(±19.3) 12.0 設計 事務 14 66.7(±17.7) 64.5(±15.7) 2.2 57.6(±19.5) 62.4(±18.8) 4.8 62.2(±15.1) 63.4(±15.7) 1.2 48.8(±25.1) 69.5(±16.0) 20.7 * 36.9(±23.4) 58.4(±21.1) 21.5 ** 企画 71 55.8(±19.6) 64.5(±15.9) 8.7 ** 56.2(±20.0) 64.4(±15.7) 8.2 ** 52.7(±18.8) 63.8(±16.4) 11.1 ** 50.2(±20.0) 64.0(±17.7) 13.8 ** 44.7(±21.3) 62.2(±18.4) 17.5 ** ウィルコクソンの符号順位和検定 **:1% 有意 *:5% 有意 表 -3 業種と職種を組み合わせた際の植物設置前後における POMS T 得点値 Table 3 T score of POMS measurements before and after plant placement when business and job categories were combined 有効緊張 不安抑うつ 落ち込み怒り 敵意活気疲労混乱業種職種回答設置前設置後変化量設置前設置後変化量設置前設置後変化量設置前設置後変化量設置前設置後変化量設置前設置後変化量 営業 49 50.8(±10.6) 44.3(±7.7) 6.5 ** 52.2(±10.5) 46.0(±7.1) 6.2 ** 49.7(±10.2) 44.7(±7.3) 5.0 ** 44.3(±7.2) 48.1(±10.1) 3.8 ** 53.0(±10.4) 45.8(±6.8) 7.2 ** 56.6(±10.9) 49.4(±8.3) 7.2 ** 事務 24 50.6(±9.8) 44.3(±6.6) 6.3 ** 51.7(±10.9) 45.0(±5.4) 6.7 ** 49.7(±10.5) 43.7(±8.1) 6.0 ** 49.7(±10.8) 47.7(±9.2) 2.0 53.3(±9.2) 45.2(±5.3) 8.1 ** 56.9(±11.5) 50.0(±6.1) 6.9 ** 企画 35 55.5(±9.2) 47.0(±6.4) 8.5 ** 56.2(±10.8) 49.2(±7.3) 7.0 ** 52.0(±11.9) 46.0(±8.1) 6.0 ** 47.8(±8.8) 49.9(±9.3) 2.1 56.4(±10.1) 49.3(±6.6) 7.1 ** 57.8(±11.2) 51.9(±7.2) 5.9 ** 営業 46 56.2(±10.7) 48.8(±10.6) 7.4 ** 55.0(±10.8) 47.6(±8.5) 7.4 ** 51.9(±11.8) 46.2(±10.2) 5.7 ** 47.6(±7.8) 48.1(±8.3) 0.5 54.7(±9.8) 49.5(±9.1) 5.2 ** 57.3(±11.9) 52.4(±9.7) 4.9 * 食品 事務 57 55.3(±11.6) 45.6(±8.1) 9.7 ** 54.9(±11.5) 46.5(±6.6) 8.4 ** 53.1(±10.9) 44.4(±6.6) 8.7 ** 44.7(±8.0) 45.4(±8.6) 0.7 55.8(±10.2) 46.8(±8.1) 9.0 ** 57.7(±12.6) 50.5(±8.8) 7.2 ** 企画 33 51.2(±10.8) 46.0(±10.2) 5.2 ** 52.2(±10.0) 47.8(±6.9) 4.4 ** 51.0(±10.9) 47.1(±9.0) 3.9 ** 47.1(±9.0) 48.3(±10.0) 1.2 52.2(±10.8) 47.2(±9.5) 5.0 ** 56.8(±12.3) 50.8(±10.8) 6.0 * 営業 20 51.5(±9.1) 48.1(±8.9) 3.4 52.6(±7.5) 47.0(±7.1) 5.6 * 49.9(±10.5) 46.7(±8.3) 3.2 46.3(±9.7) 43.4(±8.3) 2.9 ** 53.1(±11.7) 48.4(±11.6) 4.7 * 53.8(±10.3) 48.6(±8.9) 5.2 * 設計 事務 14 46.6(±9.5) 42.1(±6.0) 4.5 * 51.5(±9.9) 46.2(±6.0) 5.3 ** 49.5(±10.5) 49.5(±6.6) 0.0 42.6(±8.0) 43.8(±7.4) 1.2 47.7(±10.1) 44.8(±6.2) 2.9 48.4(±5.7) 45.2(±5.1) 3.2 * 企画 71 56.0(±9.5) 48.4(±8.6) 7.6 ** 55.5(±11.4) 50.2(±9.0) 5.3 ** 53.8(±12.1) 48.6(±9.2) 5.2 ** 43.3(±7.7) 44.7(±7.8) 1.4 58.5(±10.5) 51.0(±9.5) 7.5 ** 60.0(±11.3) 53.8(±9.0) 6.2 ** ウィルコクソンの符号順位和検定 **:1% 有意 *:5% 有意 3.2.3 業種 職種を組み合わせた際の効果の差異 上述の結果より, 業種別や職種別のみの分類では, 植物設置による効果に目立った差異が見られなかったため, 業種と職種を組み合わせて分類し, 解析を行った 具体的には, IT 企業の営業 や 食品関連企業の企画 設計業の事務 などのことを指す それぞれの植物設置前後での値についてウィルコクソンの符号順位和検定を行い, それにより得られた結果についてまとめたものを VAS については表 2 に,POMS については表 3 に示す IT 企業では,VAS POMS ともに職種ごとで分類した場合についても対象者全体の結果とほぼ同様の結果となったが, 食品関連企業では企画で, 設計業では営業と事務について, 他の業種や職種と異なる傾向が見られた まず, 食品関連企業の企画においては,VAS では, 職場での会話 の項目のみ, 値の有意な上昇が見られ,POMS の項目に関しては, 他の職種とほぼ同様の傾向となっていた 設計業の営業に関しては,VAS では, いずれの項目にも有意差は見られず,POMS では, 抑うつ 落ち込み 活気 疲労 混乱 の 4 項目において, 有意な減少が見られた また, 設計業の事務に関しては,VAS では, 職場での会話 と 職場環境への満足度 の 2 項目に, 値の有意な上昇が見られ,POMS では, 緊張 不安 抑うつ 落ち込み 混乱 の 3 項目で有意な減少が見られた 以上のように, 業種 職種のみの分類では, 効果に目立った差が見られないものの, 業種と職種を組み合わせた場合には, 一部に異なる傾向が見られることがわかった 3.2.4 業種 職種を組み合わせた際の質問紙調査結果業種と職種を組み合わせた際の特徴を把握するため, 質問紙調査の結果についてカイ二乗検定を行い, 有意差の見られた項目についてはさらに残差分析を行った 表 -4 に 植物を設置して良かったこと, 表 -5 に 植物を設置して良くなかったこと, 表 -6 に 日頃から抱えているストレスの種類, 表 -7 に デスクでの滞在時間 の結果を示す まず, 植物を設置して良かったこと では 愛着がわいた 仕事の合間の気分転換になった 癒された 心が落ち着いた 特になし の 4 項目で有意差が見られた 愛着がわいた の項目で回答率が有意に高かったものは IT の事務 と IT の企画 と 設計の事務 であり, 有意に低かったものは IT の営業 と 設計の営業 であった 仕事の合間の気分転換になった で回答率が有意に高かったものは 設計の事務 であり, 有意に低かったものは 食品の営業 と 食品の事務 であった 癒された 心が落ち着いた の項目で回答率が有意に高かったものは IT の企画 と 設計の事務 であり, 有意に低かったものは 食品の営業 であった また 特になし の回答率が有意に低かったものは IT の企画 であった

90 矢動丸琴子 中村勝 岩崎寛 表 -4 植物を設置して良かったこと Table 4 Results of what was considered positive about office greening p 値 5 1 1 5 5 5 5 愛着がわいた ** 5 15 1 1 1 1 植物が 好きになった 5 1 1 1 5 5 職場の雰囲気が 良くなった * 5 5 5 5 51 仕事の合間の 気分転換になった ** 5 1 5 5 5 5 5 1 癒された 心が落ち着いた 5 1 1 1 1 特になし ** 1 5 5 その他 カイ二乗検定 **:1% 有意 *:5% 有意残差分析 :1% 正に有意 :5% 正に有意 :1% 負に有意 :5% 負に有意 表 -5 植物を設置して良くなかったこと Table 5 Results of what was considered negative about office greening p 値 デスクのスペースが 5 1 1 1 1 1 1 狭くなり邪魔に感じた 思ったより選択した植物 5 が気に入らなかった 虫が増えた気がして 1 1 1 5 1 1 不快だった ** 1 5 1 1 実験期間内に枯れてし まった 1 1 5 1 1 5 1 5 管理が面倒だった * 1 5 5 1 5 1 5 5 特になし ** 1 1 5 5 5 1 1 その他 カイ二乗検定 **:1% 有意 *:5% 有意残差分析 :1% 正に有意 :5% 正に有意 :1% 負に有意 :5% 負に有意 表 -6 職場におけるストレスの種類 Table 6 Workplace stress types p 値 仕事の内容 1 5 1 仕事の量 ** 5 1 1 1 5 仕事への適性 1 5 1 15 1 5 1 職場の人間関係 * 5 1 5 昇進 昇給 1 5 1 1 5 15 1 1 勤務時間 ** 1 1 5 1 1 1 5 15 1 5 福利厚生 1 11 1 5 1 1 オフィス環境 1 5 1 1 1 1 特になし * 5 1 1 5 1 1 1 5 その他 1 カイ二乗検定 **:1% 有意 *:5% 有意残差分析 :1% 正に有意 :5% 正に有意 :1% 負に有意 :5% 負に有意 表 -7 デスクでの滞在時間 Table 7 Duration of time spent at the desk 1 時間未満 1 1 1 1 1 1 時間以上 5 時間未満 55 1 1 5 5 5 1 1 5 時間以上 8 時間未満 1 1 1 5 1 8 時間以上 1 5 5 1 1 5 1 カイ二乗検定の結果 1% 有意残差分析 :1% 正に有意 :5% 正に有意 :1% 負に有意 :5% 負に有意 次に, 植物を設置して良くなかったこと では 虫が増えた気がして不快だった 管理が面倒だった 特になし の 3 項目で有意差が見られた 虫が増えた気がして不快だった の項目で回答率が有意に高かったものは 食品の企画 であり, 有意に低かったものは IT の営業 IT の企画 設計の企画 であった 管理が面倒だった の項目で回答率が有意に高かったものは 食品の事務 であり, 有意に低かったものは 食品の営業 であった 特になし の項目では 設計の企画 の回答率が有意に高く 食品の事務 と 食品の企画 の回答率が有意に低かった また, 日頃から抱えているストレスの種類 では 仕事の量 職場の人間関係 勤務時間 特になし の 4 項目で有意差が見られた 仕事の量 の項目で回答率が有意に高かったものは 設計の企画 であり, 有意に低かったものは 食品の事務 であった 職場の人間関係 の項目で回答率が有意に高かったものは 設計の事務 であった 勤務時間 の項目で回答率が有意に高かったものは 設計の企画 であり, 有意に低かったものは 食品の営業 であった また, 特になし の項目では IT の営業 の回答率が有意に高く, 設計の企画 の回答率が有意に低くなっていた さらに, デスクでの滞在時間 においても有意な差が見られた 1 時間未満 の回答率が有意に高かったものは 食品の営業 であり, 1 時間以上 5 時間未満 の回答率が有意に高かったものは IT の営業 と 食品の営業 と 食品の企画 であった 5 時間以上 8 時間未満 の回答率が有意に高かったものは IT の事務 食品の事務 であり, 8 時間以上 の回答率が有意に高かったものは IT の企画 設計の企画 であった なお, 設計業に関しては 8 時間未満での滞在時間において差が見られず, 他業種とは異なる傾向となっていた 以上の結果から, 業種と職種を組み合わせた場合には, 心理的効果の差に限らず, 植物設置に対する反応や日頃のストレスの種類においても差が見られることが明らかとなった 4. 考察業種と職種を組み合わせた場合に心理的効果および植物設置に対する反応や日頃のストレスの種類に差が見られる要因として, 仕事の内容やその特徴が考えられる IT 企業においては, 仕事 職場に対する評価 や 気分 感情状態に対する評価 に加え, 日頃から抱えているストレスの種類 などに目立った差は見られなかった しかし, 植物を設置して良かったこと の 愛着がわいた の項目では, 事務 と 企画 は有意に高いものの, 営業 では有意に低い結果となっていた この要因として, 営業 では, 他の職種と比べてデスクに滞在している時間が少ないことから, 植物と関わる機会が少なくなり, あまり愛着がわかなかったのではないかと考えられた 食品関連企業においては, 気分 感情状態に対する評価 では, 植物設置により同様の傾向であったが, 仕事 職場に対する評価 においては, 企画 で異なる傾向が見られた この要因として, 食品の企画 では, 業務内容が食品の開発であるため, 衛生面に対して過剰に反応する傾向があ

オフィス緑化が勤務者に与える影響に関する研究 業種 職種別による考察 91 ったことが影響していると考えられる 質問紙調査の 虫が増えた気がして不快だった という項目が有意に高かったことからも, 植物を設置することにより, 虫が増えるということを懸念する傾向が高かったと示唆され, 仕事 職場に対する評価 が向上しなかったのではないかと考えられる しかし, 有意差は見られなかったものの, 植物を設置して良かったこと として 癒された 心が落ち着いた の回答者が 54.5 %, 愛着がわいた の回答者が 48.5 % と約半数いたことから, 気分 感情状態に対する評価 は他のものと同様に改善されたのだと考えられた 設計業においては, 仕事 職場に対する評価 については, 企画 が対象者全体と同様の傾向を示していたが, 営業 と 事務 ではあまり評価が向上していなかった また, 気分 感情状態に対する評価 においても, 企画 では, 活気を除くすべての負の感情項目が改善されていたものの, 営業 と 事務 においては異なる傾向となっていた この要因として, 企画 では, 普段から抱えているストレスが他の職種と比較して多いことが考えられる その根拠として, 質問紙調査の 日頃から抱えているストレスの種類 において, 仕事の量 と 勤務時間 が有意に高くなっていることが挙げられる また, それに加え, 植物を設置して良かったこと として, 仕事の合間の気分転換になった と 癒された 心が落ち着いた の項目の回答率が他の職種と比較して有意に高いことから, 植物設置により日頃のストレスが軽減され, 仕事 職場に対する評価 が向上し, 気分 感情状態に対する評価 が改善されたのではないかと考えられた また, 営業 では, 植物を設置して良かったこと の 愛着がわいた の項目が有意に低くなっており, このことが要因となり, 仕事 職場に対する評価 の向上や 気分 感情状態に対する評価 が改善されなかったのではないかと考えられた さらに, 事務 においては, 職場の人間関係 が有意に高くなっており, このことが原因で 気分 感情状態の評価 における 怒り 敵意 の項目が改善されなかったのではないかと考えられた しかし, 今回のサンプル数ではそのように断定することが難しいため, 今後も調査を重ね, 一般化する必要があると考えられる 5. まとめ 本研究では, 実際の企業 10 社において植物を設置し, 設置前後における勤務者への影響について検証した その結果, 勤務者の仕事への集中力や職場環境への満足度といった 仕事 職場に対する評価 と, 疲労や混乱などといった 気分 感情状態に対する評価 のどちらにも良好な影響を及ぼすということが明らかになった これらの結果は, 既往研究 7) と同様の結果となった それに加えて, 気分 感情状態に対する評価では, 既往研究では差が見られなかった活気の項目も有意に値が上昇していた 異なる業種 職種別の効果については, ほぼ同様の傾向を示しており, 特に目立ったものは見られなかったが, 業種と職種を組み合わせた際には, 異なる傾向が見られた これらの要因として, 筆者の仮説通り, 仕事の内容や特徴が異なるということが示唆された また, それに加え, 植物に対する印象や日頃から抱えているストレスの種類の違いなども植物設置による効果の違いをもたらす要因だと考えられた 以上のことから, オフィスにおける植物の設置は, 勤務者に対して良好な影響を及ぼすことが既往研究と同様に明らかとなった しかし, 業種 職種を組み合わせた場合など個人の業務内容を細かく絞っていくと, 効果が異なる可能性が示唆された これは, 仕事の内容に加え, 植物に対する印象やストレスの種類の違いも影響していると考えられた 今後, オフィス緑化を推進していくにあたっては, 植物のストレス緩和効果をアピールするだけでなく, 業種や行っている業務にも配慮する必要があると考えられた また, 業務内容別の植物に対するイメージや印象についても考慮する必要があり, 業種や職種ごとの特性を把握するための更なる調査が必要であると考えられる 謝辞 : 本研究を進めるにあたり, 業務中にも関わらず調査にご協力頂いた対象企業 10 社の担当者様及び社員の皆様に, この場を借りて深く感謝申し上げます 引用文献 1) 橋本幸博 鳥海吉弘 (2012) オフィス空間における植物量のストレス緩和への影響に関する研究模擬執務空間における被験者実験結果. 日本建築学会計画系論文集, 77(680): 2371-2378. 2) 岩崎寛 菊池典子 大塚芳嵩 中村勝 (2015) オフィスにおける植物の設置が勤務者の心理に及ぼす影響. 日本緑化工学会誌, 41(1): 239-242. 3) 岩崎寛 山本聡 権孝姃 渡邉幹夫 (2006) 屋内空間における植物のストレス緩和効果に関する実験. 日本緑化工学会誌, 32(1): 247-249. 4) 厚生労働省. 労働安全衛生特別調査 ( 労働者健康状況調査 ) の概況. 厚生労働省ホームページ. http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/h24-46-50.html ( 参照 : 2016 年 2 月 24 日 ). 5) 厚生労働省. 改正労働安全衛生法のポイント. 厚生労働省ホームページ. http://kokoro.mhlw.go.jp/etc/kaiseianeihou.html ( 参照 : 2015 年 4 月 27 日 ) 6) 小坂凛 岩崎寛 (2014) 植物の設置による VDT 作業時の疲労緩和効果に関する基礎的研究. 日本緑化工学会誌, 40(1): 254-256. 7) 矢動丸琴子 大塚芳嵩 中村 勝 岩崎 寛 (2016) オフィス緑化が勤務者に与える心理的効果に関する研究. 日本緑化工学会誌, 42(1): 56-61. (2017 年 6 月 30 日受理 )